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広島高等裁判所 平成4年(ネ)128号 判決 1992年12月24日

控訴人

広島県

右代表者知事

竹下虎之助

右訴訟代理人弁護士

樋口文男

右指定代理人

小池和馬

外四名

被控訴人

永田晃広

右訴訟代理人弁護士

島方時夫

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  申立

一  控訴人

1  原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二  主張

当事者双方の主張は、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

第三  証拠<省略>

理由

一当裁判所も、被控訴人の本訴請求は、金一四四一万五〇五七円及びこれに対する昭和六〇年七月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないものと判断するものであるが、その理由は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一二枚目裏三行目の「第三号証、」の次に「撮影者撮影対象、撮影年月日とも控訴人主張のとおりの写真であることにつき争いがない乙第七号証の一ないし五、第九号証の一ないし四、」を加え、同末行の「第二戦」を第二試合の尾道高等学校との試合」に改め、同一四枚目裏八行目の「正」の次の「の」を削除する。

2  同一六枚目表八行目の「危ないと思った旨」の次に「、正三塁手として三塁コーチボックス内の後部付近にいた益田剛行は、被控訴人も右コーチボックス内にいて同監督の打球に当たった旨」を、同二二枚目裏五行目の「一四五六万六五一六円」の次に「(円未満切捨て、以下同じ。)」をそれぞれ加える。

3  同一六枚目裏五行目冒頭から、同一七枚目表五行目までを次のとおり改める。

「1 請求原因3(拓殖監督の過失)について

右二認定の事実によれば、拓殖監督は、本来レフト方向のファウル・ライン際にライナー性の打球をノックするつもりであったのに、ノックした打球は左側にそれ被控訴人のいた三塁のコーチス・ボックス付近に飛び、同所において、レフト方向を見て「レフト」と声を掛け、本塁方向に振り向こうとしていた被控訴人の顔面右眼付近を直撃したものであること、被控訴人が右打球を避け得なかったのは同人がレフトの外野手に声を掛け、本塁方向に振り向こうとした瞬間であって、ノックの瞬間を見ていないことと、打球がライナー性のものであったことによるものと認められる。

また二認定の事実によれば、三次高校野球部の練習のうち「試合前七分間のノックによる守備練習」は、その方法及び手順が定められており、内野ノックに次いで外野ノックが行われることとなっていたこと、外野ノックを始めるにあたっては、監督或いは選手等がノックを受ける選手に予め声を掛け、連携プレーの内容を指示するなど、各選手間の意思の疎通を計りながら、反復練習を繰り返してきたものであることが認められる。

ところで、野球の守備練習のためにノックをするに際しては、ノックを受ける選手が所定の位置につき、その準備が整ったことを確認し、十分意思の疎通を計ってからノックをすべきことは言うまでもないところであるが、同時に打球の方向にいる他の選手の動静にも注意を払いその安全を確認したうえノックをすべきであって、各選手の態度如何によっては、ノックを一時中止してその注意を喚起し、危険の発生を未然に防止すべき義務があるものと言わなければならない。

しかるに、前記二認定のとおり、拓殖監督は、内野のノックを終え、レフトへの外野ノックを始めるに際し、捕手が「レフト、ボールセカンド」と指示し、三塁コーチス・ボックス付近にいた被控訴人らも、これに合わせてレフト方向を見ながら外野手に声を掛けているにもかかわらず、三塁コーチス・ボックス方向に打球を飛ばすことはないものと過信し、被控訴人らの動静に注意を払うことなく漫然とノックを開始したものであること、右レフトノックの一本目はレフトのファウル・ライン付近のクッションボールの守備練習のためであって、三塁ベース付近を抜けるライナー性の打球を想定してノックされたものであるが、拓殖監督はこれを打ち損じたため、ノックしたライナー性の打球は左側にそれ三塁コーチス・ボックス方向に飛んだこと、右打球は本塁方向に振り向こうとしていた被控訴人の顔面を直撃し、本件事故が発生したものであることが認められる。

しからば、本件事故は、拓殖監督がレフトへのノックを開始するに際し、自己の技量を過信し、三塁コーチス・ボックス方向に打球を飛ばすことはないものと考え、被控訴人らの動静に注意を払うことなく、漫然とノックをし、誤って同方向にライナー性の打球を飛ばした過失と、被控訴人が拓殖監督のノックの瞬間を見ていなかったことからこれを避け得なかったことにより発生したものであって、同監督は本件事故の発生につき過失責任を免れることはできないものと言わなければならない。

4  同二三枚目表四行目冒頭より、同二四枚目裏五行目までを、次のように改める。

「2 次に、控訴人は、被控訴人には、ボールから目を離した過失があると主張するので、この点について検討する。

前記二において認定したとおり、「試合前七分間ノックによる守備練習」は、その方法、手順が定められており、連携プレーを要求されるなどその内容も多様であるから、短時間に能率良く実施する必要があり、拓殖監督のノックは相次いでかなりスピーディーに行われていたこと、他方被控訴人は内野ノックが一巡し、外野ノックが始まる際には三塁のコーチス・ボックス付近に退避し、普段の練習の時と同じように、外野に向かって声を掛けていたため、捕手から拓殖監督にボールが渡り、同監督が外野ノックの態勢に入っていることはもとよりノックの瞬間を見ていなかったことが認められる。

右事実によれば、「試合前七分間ノック」が所期の成果を挙げるためには、各選手が監督の一挙手一投足に細心の注意を払い、その指示に的確に反応し、ボールから目を離すことなく、それぞれ期待される最善のプレーに徹することが必要不可欠である。

また、一般にノックに熟達している監督といえども誤ってノックを打ち損じ、思わぬ方向に打球を飛ばすこともあり得るところであるから、各選手は特にノックの瞬間には注意を払い、危険な打球に対し、自らを守り事故の発生を未然に防止する注意義務があるものと言うべきである。

しかるに、被控訴人は極めて僅かな時間ではあるが、外野に声を掛けている間、監督がノックの態勢に入っていることに気付かず、被控訴人が本塁方向に振り返ろうとしたところへ、ノックしたライナー性の打球がきたためこれを避け得なかったものと認められ、被控訴人にも注意に欠ける点がなかったものとは言い難く、本件事故発生につき被控訴人にも過失があったものと言わなければならない。

しかしながら、前記二認定のとおり、被控訴人は予めレフトへのノックに備え、三塁ベースから、四、五メートル離れたコーチス・ボックス付近に退避していたのであり、外野ノックが始まる時には内野手は一斉にレフトの選手に声を掛けることが普段から行われていたのであるから、被控訴人がその僅かな間ボールから目を離していたからといって、その過失を重くみることはできない。(外野ノックが始まる際、内野手はレフト方向を向かないで声を掛けるべきであるという指導がなされていたと認めるに足りる証拠はない。)

そうすると、本件事故の発生につき、拓殖監督の前記認定の過失の内容と対比すると、被控訴人の過失割合は二割程度と認めるのが相当である。」

5  同二五枚目表四行目の「右部分」から「考慮し」までを「本件訴訟の難易、審理の経過、前示認容額、その他本件において認められる諸般の事情を総合すると」に改める。

二結論

以上の次第で、被控訴人の本訴請求は、金一四四一万五〇五七円及びこれに対する不法行為の日の翌日である昭和六〇年七月二三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないところ、これと同旨の原判決は相当である。よって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官新海順次 裁判官小西秀宣 裁判官難波孝一)

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